第3話 消えたアンナ act.1~10スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.1] 西暦2100年。 アンナは白いシーツの敷かれたベッドの上で寝ていた。 ここは[ノアボックス]内にあるアンナの自室。 アンナは夢を見ていた。 思わずシーツの裾をぎゅっと握り締めた。 アンナ「ママ……。」 夢の中でアンナは自分の”家”の中にいた。目の前に、自分より少しだけ背の高いすらりとした女性が立っていた。その女性はアンナに朝食を作ってあげている最中だった。 アンナ「おいしそう。」 その女性はなぜか暗がりの中にいて、顔ははっきりとはわからなかった。 家の中全体に強いコントラストの影が下りていて、細かいディテールはよく分からない状態だった。 その女性は実に楽しげに料理を作っている。 アンナはその女性の事が好きだった。 そしていつになくアンナは自分から彼女に話しかけようとした。 だが、どうしても話しかけられない。それは何故だかわからなかった。 次の瞬間、 突然家の一方の壁が崩れた。 アンナ「はっ!」 不意の出来事に普段感情を外に出さないアンナも驚いた。 壁の裂け目から家の外に巨大なロボットが立っているのが見えた。 アンナ「レイド?」 それは白い機体で……、ザークによく似ていた。 アンナ「ザーク!こんな所で!」 アンナは全身が硬直した。 目を覚ますアンナ。体中に汗をかいていた。 アンナ「はあ、はあ……。 久しぶりだわ。 悪い夢を見たのは……。」 それから服を着替えて、朝食を取り、いつもの様にアンナは[教室]に向かった。 [教室]とは、レッドノアの船内の一画に設けられた教室そっくりに作られた部屋だった。 今日のアンナは皆から離れた席に座った。それは教室の一番奥の方に位置する机。 いつも多少皆から離れた位置に座るのだが、それでもこれだけ離れるのは初めてだった。 アンナの小さな変化に、教室に入って来た他のメンバー達は戸惑った。 クリス「……。」 委員長「……。」 豪 「……。」 皆、驚きと心配の目でアンナを見た。 アンナの腰掛けた席は窓際で、今日は開閉式のシャッターが大きく開けられ、そこから青い空が覗いていた。 もう季節は6月。 空は時として夏の日のように澄み切って青く、白い大き目の雲が空のはしばしに浮かんでいた。 アンナは机の上に肘を着き、手の平の上に小さな顔を乗せて外を見つめていた。 神田 「なんや、アンナちゃん~~~~~?俺が嫌いになってしもうたんかいな~~~~~?」 委員長「くっ!」 アンナの横顔は日本人離れしていて美しかった。 彼女は小柄な少女だが、その顔の美しさはいつもその存在感を際立たせていた。 高い小さな鼻とはっきりとした瞳が特に印象的だった。 神田 「美しい……。ポッ!」 委員長「フッ! ( -_-) 」 それからもアンナの”疎遠”は続いた。 アンナは[食堂]の自動販売機で野菜のたくさん入ったハンバーガーとシェイクのバニラ味を出して、それを持ってさっさと自室に引き返してしまった。 神田 「か~~~~~~!!!!アンナちゃん!」 神田はハンカチを出して、口に加えて伸ばした。そして泣きマネをした。 委員長「いったいなんのマネ…?」 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.2] [食堂]には小さな厨房が造られており、最近その中に女性型のロボットが入っていた。 小さなキッチンを利用して、ここで作る事が可能な物は何でも作ってくれた。 神田 「うお~~~~~~~~~~!これはなかなかええサービスや! でも、なんでロボットなの?俺は本物の”女の子”の方がええんやが?」 委員長「きっといつでも好きな時に食事が取れるようにとの配慮から、わざわざロボットにしてくれたのよ。 貴方のご期待にそえる形で24時間いつでも即座にお料理を作ってくれるわ……。」 神田 「そんなぁ~~~。俺はやっぱり女の子の手料理の方がええんや。」 委員長「くーーーーー!!!!!」 豪 「勤務時間の問題だけじゃないと思いますよ。僕達のしている事はトップシークレットに抵触する事が多いですから。 どこからか情報が漏れないようにと、本物の女性を使うのを止めたんじゃないですか?」 豪が真面目にそう答えた。するとクリスが、 クリス「そうかも知れない…。でも、その事はあまり深く考えない方がいいと思うよ。 その方が健康的だ。あまりそんな風にばかり考えると気がめいるよ。」 豪 「そうですね。」 神田 「俺はな………、こんな閉鎖空間にいるのは嫌なんだよ。どこかに”女の子”はいないか?かわいい女の子は?」 豪 「はあ?」 神田はクリスや豪の前で両手を合わせてそう聞いた。 そして委員長の前にも来て、同じような事をした。 神田 「は~~~~~~!一度でいいから”女の子”の手料理を食べてみたいもんやなあ! どっかにおれへんか?かわいい女の子は?」 委員長「くくくく~~~~!」 ”女の子”で、しかも”かわいい”委員長が怒った。 豪 「マズい……、休火山が活火山に変わりそうです。」 バキッ!ドガッ!バキッ!バキッ! 委員長「このーーーーーー!!!」 神田とのアクションシーンがついにスタートした。 その頃、アンナは1人自室でハンバーガーを食べていた。 少しずつハンバーガーをその小さな口に放り込みながら、目の前のパソコンモニター上で何かを始めた。 ピッ!ピッ!ピッ!ピッ! アンナはキーボードを叩くのが異常に速い。 普段はおっとりしていて動作もゆっくりだが、何故かキーボードを前にすると異常に速くなる。 ただ、この年頃の女の子は往々にしてそうである。急に異常な速さで携帯電話でメールを打ち始めたりするものだ。 画面に3D表示の案内版が出た。 アンナはそこから[タイムトリップ2100]というソフトを選んで起動させた。 これは3DCGで構成されたバーチャルシティーを楽しむ事が出来るソフト。 インターフェースを操作すれば、あたかもその都市の中に実際に入れるように見えるというもの。 また年代をセットすれば、その年代の都市がモニター上に再現される。 アンナ「16年前……。」 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.3] [16年前]と打ち込むと、その通り16年前の都市が画面上に3D表示される事になる。 キーボードを叩いてアンナは擬似のタイムスリップを敢行した。 しばらくロードで待たされた後……、目の前に綺麗な3DCGによる都市が再現された。 アンナ「懐かしい…………。」 アンナが5歳ぐらいの時に見たような街並がそこに現れた。 思わず、懐かしさでいっぱいになった。 アンナは普段何事にも感情の変化を示さない女の子だ。それが昔の街並みを見ただけで、胸がいっぱいになった。何か心の奥底にあった忘れていた記憶が呼び覚まされたような感じだった。 アンナの頬に生気が射し、人形のような冷たい顔立ちの美少女から、ごく普通の明るい感情を持つ女の子の顔へと変化した。 それは普通の人が見てわからないぐらいの変化だったが、確かに変化していた。 今行おうとしている事はアンナが一番興味ある事なのだ。 3DCGはまるで本当にそこに街があるかのように振舞って見せ、アンナは夢中になってその仮想空間の中を歩いた。 本当ならこの空間の時間帯はアンナが[0歳]の時のものだ。 アンナは物心が付いた5歳からの記憶しか無い。 だが街並みはそれでも覚えている記憶と一致している部分が多い。 アンナの目は大きく見開かれ、周りの物に強く興味を示し始めた。 彼女の視点は実に早くいろんな物に移って行った。 アンナ「ああ……、あの携帯電話のショップも見覚えがあるわ。」 アンナは夢中になった。 アンナ「あの角を曲がれば、あそこにはよく行ったペットショップがあって………、 中にはかわいい白い子犬がいたわ。それを欲しかったのだけど………。」 アンナはその子犬に会えると思って、角の方へ走って行った。しかし……、行ってみるとそこは空き地だった。 ショックだった。悲しくて泣き出しそうになった。 やはりここは仮想空間でしかない。 良く出来ていても、それは本物ではないのだ。 ……そう思った。 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.4] しかし……、 アンナ「はっ?!そうだわ!」 アンナは[16年前]と入力した事を思い出した。 そこでアンナは自分が5歳の時、すなち11年前と入力し直した。 子犬がいたのはアンナが5歳ぐらいの時だったからだ。 するとまた懐かしい街並みが現れた。さっきとそれほど変わらない。 再現する時間を少し間違えていたのだ。 今なら、そのペットショップが存在しているのかも知れない。 アンナはさっきの角まで夢中で走って行った。すると…、今度はあのペットショップがあった。 アンナ「ああ……、確かにそうだわ。このペットショップだわ。」 アンナの瞳にははっきりとそのペットショップの全景が映っていた。その目は潤んで少し濡れて来た。 アンナはさっそく店内に入り、あの犬の姿を探してみた。店内も記憶にある店内そのままで懐かしかった。 すると……、あの子犬がいた。 アンナ「ああ、メリー!」 その犬はペットショップでは”メリー”と名付けられていた。 アンナは思わずモニター画面に手を伸ばした。 それは映像でしかなかったが、本当にアンナの記憶にある犬にそっくりだった。少々ポリゴンが粗いが特徴はよくつかんでいた。 そのかわいらしい仕草。 まだ丸くて太いしっぽ。 全て記憶のままだった。 しかし、それをこの手でつかむ事が出来ないと知ると、急に胸に詰まるような悲しさ込み上げ来た……。 アンナは机の上に両腕を着いてその上で泣き始めた。 その頃、神田はサンダル履きで基地内をうろうろしていた。 実はそんなものを履いたままでは入る事が許されないエリアも数多く存在していた。 しかし、神田はそんなものおかまい無しに普段からサンダルを愛用していた。 レッドノアはスポルティーファイブのメンバーを乗せたまま、空中に浮かんでいた。 都市のすぐ近くにある小さな山の上に待機していたのだ。 特に今事件など無いが、レッドノアは就航して間も無いので、テストの為こうして山の上に浮かんでいるのだった。 アンナが[展望室」にやって来て、そこの長椅子に腰掛けて深く頭をうなだれた。 膝のすぐ上辺りに顔が来て、その周りに柔らかめの髪の毛が垂れた。 偶然、そこに神田が通りがかった。 神田は展望室入り口から、奥の方で少々変な格好で座り込む人物を見つけた。 その人物は神田のいる入り口方向に背を向けていたが、よく見るとそれは若い女性のようだったので神田はそこに近づいて来た。 神田 「(わお!こんな所に”女の子”がおるで、珍しい。ちょっと挨拶してくるか!)」 神田はその人物の背中のすぐ近くに立った。 神田 「あっ、あのう。お嬢さん、何してるんですか?こんな所で? 俺…いや、僕は神田と言います。お嬢さんは何と言うお名前ですか?」 普段と違う標準語の神田。 「……………………。」 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.5] 神田 「あーーーーーーーー!何も喋らないんですか? そういえば、俺…、いや僕のチームにもそういう美少女……、いえ、女の子が1人いるんですよ。だからそういうのには慣れています。」 その時、神田はいきなり耳たぶを捕まれた。 神田 「うわああ!いてててて!」 それは委員長だった。 神田はその格好のまま入り口の所まで引っ張って行かれた。 神田 「あいいててて!委員長、何するんや!」 委員長「何をしてたの~~~~~?!」 委員長の目が怖い。 神田 「はあああああ~~!!!」 ………委員長には勝てない。観念して開き直る神田。 神田 「いえ、別に。あの女の人が何か頭でも痛いのかと思って心配して声をかけたんや。」 委員長「それにしちゃ、ずいぶんと声が裏返ってたんじゃないの?」 神田 「いいえ、裏返ってません。」 委員長「いいえ、裏返ってたわ!いつもの方言はどうしたのよ?!」 神田 「”方言”?方言やて?俺の言葉は地元の言葉や!方言と言うとまるで田舎の言葉みたいやんけ?! いくら委員長でもそんな言い方は許せんわ!」 委員長「じゃあ、さっきはなぜ標準語使ってたの?」 神田 「ううっ?!」 神田は青くなった。そして神田はさっと話題を変えた。 神田 「それより委員長、あの人なんやろ?さっきからずっとあの格好しとるで。ホンマに頭痛いんとちゃうか?病院連れて行った方がいいと思うで。」 委員長はその女性をチラリと見て、すぐにそっちの方に気が移った。 心配性で世話やきの委員長ならでは。 委員長「ええ、そうね……、確かに少し変だわ。」 神田 「そやろ!俺がちょっと行って声かけてくるわ!」 委員長「待ちなさい!私が行って来るわ!」 そう言われて神田は困り顔になった。そして両手を合わせて委員長に頼み込んだ。 神田 「なんでやねん?こういう事は俺に任してえや! これは絶好のチャンスやねん。こういうのがきっかけで世の男とオナゴは知り合っていくもんや! ここは1つ俺にやらせてえや!彼女を病院に連れて行ったら、きっと俺にグラッときよるで!」 あまりにも馬鹿馬鹿しい話なので、委員長は神田を無視をした。 そして、女性の方に向かってツカツカと歩いて行った。 ツカツカツカツカ……。 神田 「あああああああああ……。」 神田は小声でぼやいた。 神田 「ああ、この数少ない無い機会を委員長に奪われた。 今度こんなシチュエーションがやって来るのはいったいいつの日になるのだろうか?」 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.6] 委員長「もしもし、どうされました?」 委員長はそれがアンナとは知らずに、丁寧な口調で声をかけた。 アンナはゆっくり顔を上げた。 委員長「あっ、アンナ!その服初めてだったからわからなかったわ!」 神田 「え?なに?アンナちゃん?!」 神田は慌てた。 顔を上げたアンナは髪の毛でその表情は隠れていたが、その瞳が涙で濡れている事は薄らとわかった。目は真っ赤に充血していた。 委員長「いったいどうしたの?」 アンナは長椅子から立ち上がって走り出した。そして、神田の横をすり抜けて、通路を奥の方まで走って行った。 神田 「あああ、アンナちゃーーーーーーーーーん! いったいどうしたんやろ?」 アンナの姿は通路の角の向こうに消えた。 神田 「はあ~~~~~。」 ため息を付いた神田が振り返ると……、 そこには目付きの変わった委員長がいた。そして……、 委員長「かんだあ~~~~~!」 神田 「はっ!委員長!まっ、まさか………?」 委員長はさっきアンナが泣いていたのを神田のせいと思ったのだ。 神田 「委員長!何か勘違いしとるで?!」 委員長は大きく首を振る。 ブルン!ブルン! 委員長「いいえ、してません!」 神田 「いいやしとるで!」 委員長「アンナに何をしたの?」 神田 「はっ!まさか俺が泣かしたとでも……。誤解や!それは誤解や!俺は何もしてへんで!」 委員長「かんだあ~~~~~!!!!」 アンナが泣いていた訳は……、 直前まで見ていたバーチャルシティーの情景のあまりの懐かしさに感情が込み上げて来て泣いていたのだ。 あの10数年前の空間。そして大好きだった子犬……。 さらに……、 それらは目の前にいるものの……、もうこの手でつかむ事が出来ないもどかしさがそうさせていた。 アンナ「………………。」 その日以来、アンナはこの仮想都市によく潜るようになった。 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.7] 教室で委員長はクリスに話かけた。 委員長「アンナ、この間凄く泣いてた。」 クリス「なぜ?」 クリスが心配そうな顔で聞いた。 それを見て委員長は急に顔をこわばらせ、 委員長「神田が泣かした。」 と言った。 それで豪とクリスは神田の方を見た。 神田 「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってえや~~~~!君達、何か勘違いしとるで?」 豪 「神田さん、今の話は本当ですか?」 神田 「間違いに決まっとるやないか!なあ、それは信じてもらえるやろ?」 豪 「神田さん……、見そこないました。」 神田 「待てやーーーーーーー!!!」 アンナはこの基地内にある仮想ルームに行った。 ここは[バーチャルルーム]と呼ばれる部屋で、この部屋の中には無数のセンサーが埋め込まれ、体に発信機を取り付けたスーツを着て中に入ると、その動きがモーションキャプチャーのシステムで捉えられ、コンピュターに信号となって送られる。 そして、その信号を元に映し出された仮想空間の中で自由に歩き回れるようになっていた。 部屋全体の壁面に映像が投影され、ここに入った被験者はバーチャル空間を全身の感覚を使って体験できるシステムになっている。 これは普段はさまざまな目的の訓練用のシミュレーターとして使われているが、その使用が無い時はノアボックスの隊員に開放されていた。 開放時にはレクリエーションの一環としての使用や自主トレーニングに使用する事が許されていた。 アンナはヘッドマウントディスプレイを着けてから、ここから仮想の街に潜る。 ここにあるプログラムの中に[タイムトリップ2100]の上位バージョン[タイムトリップ2100 エクストラ]があった。 アンナは迷わずそれを立ち上げた。 自室のパソコンから潜るより、スクリーンが大きい分映像の解像度が細かくて、さらに現実味を帯びていた。 グラフィックは360度どの方向にも映し出されて、本当に街の中に立っているような感覚に陥った。 画像はアンナが5歳頃の背の高さから見た視点に調節されていた。 それによって周りの物全ての背が高く見えた。壁も車もお店の入り口も。 自動販売機や駅の自動改札でさえ大きく見えた。 アンナは今、擬似で5歳頃の感覚に戻ったのだ。 アンナ「懐かしい……。」 それにしてもこの3Dは細かい所まで再現されていて、パッと見は本物と見分けがつかなかった。 当時のデーターがここまで正確に残っているのだろうか? それとも住宅・公園・道路等は共通のパーツになっているのだろうか? とにかく再現性には目を見張る物があった。 アンナは記憶の片隅に残っていた懐かしい商店街を通った。 その他、駅、公園、噴水……、いろんな所に行ってみた。 そうしてしばらくぶりの感触を踏みしめた。 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.8] そして…、不意に自分の家に行ってみようと思い立った。 アンナ「…………。」 が、しかし家までの道順の記憶がそっくり抜け落ちている事に気が付いた。 周りの景色はある程度までは覚えていたのだが……、肝心の家への道順の記憶だけが思い出せなかった。 アンナはこの辺り一帯を走り回った。かすかな手がかりを求めて探し回ったのだ。 だが、結局家にはたどりつけなかった。 どうしてもある所までの道のりしか覚えておらず、その先に進めなかった。 アンナはログアウトした。 その後、アンナはノアボックスに対して休暇を申し出た。 「緊急出動時には一般の兵士と同じようにすぐ任務に復帰する事」を条件に休暇は許可された。 アンナは自分の”家”に行こうとしたのだ。そう、”現実の世界”の。 神田 「はあ~~~~。何や本物の学校が恋しいなあ。」 今日も神田は[教室]でぼやいていた。 委員長「貴方でもそんな事を言うのね。」 神田 「またや!委員長は俺の事絶対勘違いしとるで! 俺は本来詩人なんや。ロマンチストなんやで。」 委員長「はいはい……。」 神田 「ああ、早よ本物の学校に戻って”女の子”に会いたいわ。」 委員長「ピクッ! (;-_-) 」 神田 「最近全然”女の子”に会ってへんしーーーーーーーー。」 委員長「ピクッ!ピクッ! ( -_-) 」 神田 「”女の子”って言うたらここではアンナちゃんだけやけどーーーー。 アンナちゃん、最近見かけへんな。どないしたんかな? そう言えばこないだのシミュレーションも来んかったしなあ。」 豪 「アンナさんは休暇を取られたんですよ。」 神田 「えーーーーーー!なに?!それは本当か?!」 豪 「ええ、3日ほどまとめて取られたみたいですよ。」 神田 「えーーーーーーー!俺に黙ってーーーーーーーーーーー!どういうことや?」 すると、委員長が怒って、 委員長「なんで、貴方に~~~~~~、いちいち~~~~~~~~断らなくちゃならないわけ?」 神田 「俺はアンナちゃんのボディーガードやから!」 委員長「プッーーー!」 委員長は本気で噴出してしまった。 神田 「なっ、なんや委員長!噴出すなんて!」 委員長「かんだあ~~~~~~!貴方いったいどこまでが本気なのかよくわからない人よね~~~~。」 神田 「呼び捨てにするなちゅ~~~~~の!」 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.9] アンナはその頃モノレールに乗っていた。 小さい頃、よくこれに乗って出かけた記憶が残っている。 シートに座って、高い位置から見下ろす街の風景を眺めていたものだ。 今の車輛はステンレスとアルミ製の新しい物に変えられ、そこから見下ろす景色もビルが立ち並ぶ光景に変わってはいたが、どこか心の片隅に残っている記憶と合致する部分があった。 しばらくモノレールは天気の良い街中をのんびりと走った後、駅に着いた。ここはアンナが小さい頃に住んでいた街だ。 アンナは駅を降りて、街の入り口付近を眺めた。 何年もここに来た事が無かった。 現実の街はあれからだいぶ様変わりしていた。 駅はモノレールとその他の交通機関の駅がひとつになったステーションビルに変わっていた。 前に来た時はモノレールの路線しか無かったが、今は鉄道、地下鉄、バス、タクシーなどの駅が1つにまとまった大きなビルに変化していた。 そこから見える街の姿もビルがいくつか建ち並び、一端の”街”の姿に変貌していた。 アンナは中学・高校と学生寮に入ってからはあまりここに来た事が無かった。 学生寮にいた頃はこの土地を懐かしいとは思わなかった。 今回、過去の記憶を思い出し、急にその懐かしさが込み上げてたまらなくなったのだ。 アンナが私服を着て街に出たのは久しぶりの事だ。 今日は比較的涼しい。それでもアンナは日除けの為に薄手の白い布製の帽子を被っていた。 アンナの短めの髪が風で揺れる。路地には心地良い風が吹き抜けていた。 アンナは記憶にある場所をたどって、久しぶりに訪れた街中を歩き始めた。 小道の脇には濃い深緑色の植木がたくさん植えられ、ここはまだ自然が残っていると感じさせた。 途中、アンナは何度か道に迷ってしまった。 道を取り巻く風景そのものが変わってしまった事もある。 だが、そのせいばかりでは無い。 仮想の街を歩いた時と同様に、途中まで歩くとなぜか突然記憶が途切れるのだ。 その為、”家”に接近する事は出来なかった。 道に迷ったアンナは、周囲360度街並みを見回したが、この辺りもまたすっかり変わってしまっていた。 ガードレールは新しいタイプの物になり、空き地にはビルが建ち、以前は『危険』という看板が建っていた古いため池もすっかり埋め立てられて無くなっていた。 景色の変わりようは時間が経過した事をひしひしと感じさせた。 アンナは気落ちした。 そしてとぼとぼとした歩調で街中を歩いて行った。 スポルティー・ファイブ 第3話 消えたアンナ [act.10] そこへ…、 アスファルトの道の先の方に白い洋服を着込んだ比較的齢の若い男性が現れた。 齢は26歳ぐらい。欧米系の顔立ちでパッと見日本人には見えない。 髪はブラウン。美しく整った顔立ちで、まるでモデルを職業とする者のようだった。 その着ている洋服だが、なんと言うか奇妙なデザインで古い英国風の紳士が着る礼装のようでもありながら、未来的なデザインに仕上がっていた。また大き目の宝石をいたる所にちりばめており、派手で、決して普段着とは言いがたかった。その宝石はどれもあまりにも的外れな大きさを持ち、イミテーションかと思わせた。 まるで舞台衣装とでも言った方が早い洋服だった。 男性は道の真ん中で立っていた。じっとアンナの方を見つめながら。 その目はまるでずっとアンナを待っていたかのように見えた。 アンナ「……………………。」 男の服装と容姿は周りの景色にまったく溶け込んでおらず、言わば場違いで浮いた存在だった。 それでもアンナは歩く方向を変えなかった。このまま行けば、その一際異彩を放つ男の目前を過ぎる事になる。 「フッ!」 男が少し笑ったような気がした。 アンナはこの男から何か異様な感覚を感じ取っていた。それはオーラか、それとも何かのエレルギーか?といった類の物だった。 とにかく言葉では言い表せない。アンナの五感にそれは針のように突き刺さった。 いよいよ男性の表情がはっきりわかる距離まで来ると、アンナは男を避けるために脇へそれるように歩いた。そして男のすぐ横を通り過ぎた。 男は声をかけて来なかった。 何の事の無い、アンナは行き過ぎた。 しばらくして、先ほどの場所から1キロほど歩いた頃、 大きめの自動販売機の脇から、何者かがこちらをこっそり伺うような感覚に遭遇した。 アンナ「……………………。」 アンナは用心した。 さっきの男だろうか? 何かオーラのような強いパワーは発しているものの、異様な”感覚”は感じ取れない。 むしろ清潔で純粋な感じさえある。 アンナはスカートのポケットに潜ませている護身用の銃を探ってみた。 この銃はノアボックスからの貸与品である。 特別にスポルティーファイブのメンバーにだけ持たされているもので殺傷能力など無いが、離れた相手を確実に気絶させる事が出来きた。 この銃は特殊で、相手が「生物」でなくスチールやアルミその他の金属の場合、モードを切り替える事によりそのターゲットを破壊する事も可能だった。 アンナは立ち止まった。しばらくしても相手が何も動きを見せないので、クルリと後を向いてその場を去り始めた。 去り際に振り返って何度か後ろを見たが、その何者かは出て来なかった。 ジャンル別一覧
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